赤外線写真研究室

赤外線は目に見えない光ですが、赤外線写真は100年以上も前から撮られています(※1、※2)。写真撮影にデジタルカメラが使われるようになったのは20世紀の最後の頃からですから、当然の事ながら、前世紀末までに撮られた赤外線写真といえば全てフィルム等を使ったアナログ写真です。可視光(眼に見える光)による普通の写真でも、デジタルカメラによる写真とフィルムカメラによる写真との間には色々な違いがありますが、赤外線写真の場合には、デジタル写真とフィルム写真の間にさらに大きな違いがみられます。

撮影をする立場から見た時の最も大きな違いは、デジタルカメラを使うことで赤外線写真撮影がとても手軽にできるようになった事です。これは、赤外線フィルムなどという専用フィルムをわざわざ用意しなくても写真が撮れるからです。さらに、コンパクトカメラやミラーレス一眼カメラを使って撮る場合には、その場で映像を見ながら赤外線写真を撮れることもデジタルカメラの大きな利点です。また、赤外線写真は眼に見える光景とは違う光景を記録しています。このために、写真を撮った後で眼には見えない赤外線による光景(※3)を見やすい光景に変換する「後処理(レタッチ)」が重要ですが、近年の情報機器(パソコン、スマフォ、タブレットなど)の発達によって、デジタル写真についてはこの「後処理」がとても簡単になったという事が挙げられます。

光は「粒子」であると同時に「波」であるとも考えられるので、その光の性質である「色」は波の波長で決まります(※4)。可視光の波長範囲は、波長=400 nm (ナノメートル:1 nm は10億分の1メートルです)程度から700 nm 程度までのほぼ300 nmですが、700 nm から1000 nm ぐらいまでの300 nm ほどの範囲の近赤外線は直接眼には見えないけれど写真には撮る事ができます。可視光は色(波長)の違いによって色々な情報を伝えてくれますが、可視光と同じくらいの波長範囲の近赤外線は普段眼にする事のできない情報を私たちに伝えてくれます。

ここでは、赤外線とはどんな光かという事からはじめて、赤外線写真の基礎を説明して、赤外線写真の撮影法に進み、さらには、撮影した赤外線写真の後処理の方法について具体的に詳しく説明します。さらに、このような原理・方法に基づいて撮影した色々な赤外線写真を赤外線写真展示室(ギャラリー)で紹介してあります。デジタルカメラを使うことで手軽に撮影できるようになった赤外線写真に読者が親しみを持つようになって、身近な環境の隠された魅力を発掘する読者が増える事を期待します。

(※1)赤外線は1800年に、ドイツ生まれのイギリス人で、音楽家で天文学者のハーシェル卿(Sir Frederick William Herschel: 1738.11.15 – 1822.8.25)によって発見されました。彼は、プリズムによって光を分けて投影された虹色のスペクトルを観測して、その赤色部分の外側の暗い部分の温度が上がることを確認して、その部分にも見えない光、すなわち、赤外線が来ていることを推測しました。

(※2)赤外線写真を最初に撮影したのはアメリカの物理学者のウッド(Robert William Wood: 1868.5.2 – 1955.8.11)で、1910年頃のことであるとされています。実用的な赤外線カラーフィルムは1960年にKodakが発売し始めたKodak Ektachrome Infrared Aerofilm type 8443が最初です。

(※3)撮影された赤外線写真は「見えない」わけではなく、カメラの特性や撮影時の設定値に応じた色がついています。

(※4)「ある波長の光は何色か?」と聞かれたら答えはありますが、一般に「色」は色々な波長の光が集まって決まるものですから、この質問の逆である「ある色の波長は?」という質問には答えることはできません。

 ここでは、赤外線写真に関連した次のような内容のことを説明してあります。また、少し詳しいことについては、付録(Appendix)で説明してあります。最後に参考文献をまとめてあります。

1 はじめに

2 赤外線写真の基礎知識

 2−1 赤外線

 2−2 デジタル赤外線写真(DIP)

 2−3 フィルム赤外線写真との比較

 2−4 赤外線写真の特徴と応用

3 デジタル赤外線写真撮影

 3−1 赤外線写真撮影とカメラ

 3−2 フィルター

 3−3 非改造カメラのセンサー感度

 3−4 改造カメラ

 3−5 総合的波長依存性

4 赤外線写真の後処理

 4−1 センサーとフィルター

 4−2 モノクロ赤外線写真

 4−3 フォルスカラー(偽色)赤外線写真

 4−4 赤外線フィルム型フォルスカラー処理

 4−5 RGB色空間でのフォルスカラー処理

 4−6 Lab色空間でのフォルスカラー処理

5 赤外線レンズレス写真

 5−1 赤外線レンズレス写真の課題

 5−2 赤外線ピンホール写真・ゾーンプレート写真

付録

 付録A  フィルムによる赤外線写真

 付録B  Robert William Wood

 付録C  非改造カメラのセンサー感度

 付録D  簡易分光器の製作

 付録E  センサー感度とチャンネル信号

参考資料