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光線が斜めに入射した時の結像
前ページの結像の公式は光線が光軸に平行に入射するときのことを念頭において求めました。しかし、ゾーンプレートによって有限の大きさの被写体の像を作るときはゾーンプレートに斜めに入射する光線についても考えなければなりません。ここでは、ゾーンプレートに斜めに光線が入ってきた時も一点で光の強度が強くなって像ができる事を示します。図1のような配置のゾーンプレートを考えます。無限遠にある点光源からの光線がこのゾーンプレートに垂直に入射すると各ゾーンを通った光は焦点Fに集まります。図では、光軸に平行に進んできた光線が半径 r の円周上のU点を経由したのちに焦点を通過している様子を示しています。また、点光源が光軸上で有限の距離だけ隔たった点Aにある時には、その像は光軸上の点Bにできます。この場合の代表的な経路AUBが描かれています(緑色で表示)。そこで、点Aの真上にAから少し隔たった点A’に点光源を置くと、その像は直線A’Oの延長上で点Bの真下になる点B‘にできます(紺色で表示)。なお、直線ABと直線A’B’のなす角は \(\theta\) です。
図1 ゾーンプレートから有限の距離だけ離れた位置A’にある点光源から出てゾーンプレートに斜めに入射する光線の経路
ゾーンプレートは、\(x=0\) となるyz平面上に置いてあって、光軸はx軸と一致しています。ゾーンプレート上の半径 r の円が赤い円で表してあります。無限遠の点光源からの光線の一本がUを通って焦点Fに向かいます。光軸上有限の距離にある光源からの光線の経路の一本はAUB、光軸上にない光源A‘からの光線の経路は、例えば、A’VB‘(Vはn番目のゾーン上の任意の点)となります。Aから出てBに集まる光が同位相の場合、A’から出てB’に集まる光も同位相になります。
これは、次のように考えればわかります。点光源A’を出た光がゾーンプレート上の半径 r の円周上の任意の点Vで回折されて点B’に達するとしてこの全長A’VB’を計算します。次に、点A’からOを経てB’に至る直線経路の全長A’OB’を計算します。これらの長さの差が 経路AUBと経路AOBの長さの差と同じであれば、点B’は点A’の像であると言えます。以下にその計算を記します。
*AVBとAOBの長さの差:
$$L_{AOB}=a+b$$
$$L_{AVB}=L_{AUB}=\sqrt{a^2+r^2}+\sqrt{b^2+r^2}$$
$$=a\bigr(1+\frac{1}{2}\frac{r^2}{a^2}-\frac{1}{4}\frac{r^4}{a^4}+…\bigr)+b\bigl(1+\frac{1}{2}\frac{r^2}{b^2}-\frac{1}{4}\frac{r^4}{b^4}+…\bigr)+…$$
$$=(a+b)+\frac{r^2}{2f}-\frac{r^4}{4}\bigl(\frac{1}{a^3}+\frac{1}{b^3}+…\bigr)+…$$
$$\Delta L=L_{AVB} – L_{AOB}=\frac{1}{2}\frac{r^2}{f}-\frac{r^4}{4}\bigl(\frac{1}{a^3}+\frac{1}{b^3}\bigr)+…$$
*A’VB’とA’OB’の長さの差:
$$L_{A’OB’}=\sqrt{a^2+a^2{\theta}^2}+\sqrt{b^2+b^2{\theta}^2}=(a+b)\sqrt{1+\theta^2}$$
$$=a+b+\frac{1}{2}{\theta}^2 (a+b)-\frac{1}{4}\theta^4(a+b)+…$$
$$L_{A’VB’}=\sqrt{a^2(1+\theta^2)+r^2}+\sqrt{b^2(1+\theta^2)+r^2}$$
$$=a+b+\frac{\theta^2}{2}(a+b)+\frac{1}{2}\frac{r^2}{f}$$
$$-\frac{1}{4}\bigl[a(\theta^2+\frac{r^3}{a^2})^2+b(\theta^2+\frac{r^3}{b^2})^2\bigr]+…$$
$$\Delta L’=L_{A’VB’} – L_{A’OB’}=\frac{1}{2}\frac{r^2}{f}$$
$$-\frac{1}{4}\bigl( a(\theta^2+\frac{r^2}{a^2})^2+b(\theta^2+\frac{r^2}{b^2})^2\bigr)+\frac{\theta^4}{4}(a+b)+…$$
$$ \Delta L’ – \Delta L=-\frac{1}{4}\bigl[a\bigl(\theta^2+\frac{r^2}{a^2}\bigr)^2+b\bigl(\theta^2+\frac{r^2}{b^2}\bigr)^2\bigr]$$
$$+\frac{1}{4}\theta^4(a+b)+\frac{r^4}{4}\bigl(\frac{1}{a^3}+\frac{1}{b^3}\bigr)+…$$
$$=-\frac{r^2\theta^2}{2}(\frac{1}{a}+\frac{1}{b})+…=-\frac{r^2\theta^2}{2f}+…$$
したがって、条件、
$$|\Delta L’-\Delta L|\cong\frac{r^2\theta^2}{2f}\ll\lambda$$
が満たされていれば、
$$\Delta L \cong \Delta L’ \cong \frac{r^2}{2f}$$
となり、斜ねに入射した光は、光軸上の像と同じ面上に像を作ります。
実際に、被写体像ができる入射角度はどのくらいまでかと言うことは、シミュレーションによって検討をつけることができます。下の図2は、波長550nmに対して焦点距離が50mmであるように設計したフレネルゾー ンプレート、図3は、同じ波長で焦点距離が16mmであるように作ってあるゾーンプレートにつ いて、いずれも、それぞれの焦点面上のどの範囲に像ができるかをシミュレーションで求めた図 です。ゾーン数はいずれについても、9(緑)、19(赤)、29(青)、39(マジェンタ)について計算してあります。いずれの焦点 距離でも、ゾーン数が少ない方が画角を広く撮れることがわかります。
図2 斜めに入射した光の像の明るさ(1)
波長が550mm の光に対して焦点距離が50mmであるようなゾーンプレートを使った場合
波長が550nmの光に対して焦点距離が50mmであるようなゾーンプレートを使って無限遠の点光源の像を50mm離れた像面に造る時、中心から離れるにしたがって光の強さが弱くなる様子を示しています。y=10mmの所が、10/50=0.2ラジアン(〜11度)になります。
ところで、例えば、焦点距離50mm、ゾーン数9の場合、画像形成範囲を光強度分布の半値幅で考えると、 2x15mm=30mm程度となり、画角に直すと35度程度になります。マイクロフォーサーズで、こ のゾーンプレートを使う場合、焦点距離を50mmとすると、画角は20度ぐらいですから、画像形 成範囲の大きさは十分です。ただし、ゾーン数を39にすると、画像形成範囲は半分ぐらいに減少 します。焦点距離16mm、ゾーン数9の場合は、画像形成範囲は2x5mm=10mm程度で、画角に すると焦点距離が50mmの場合とほぼ同じになります。