注釈_11:ゾーンプレート・カメラの作り方(2)—交換ゾーンプレート


すでに述べた通り、レンズレス写真の一種であるゾーンプレート写真の撮影をする時、ピンホー ル写真の場合とは違って、ピント合わせが必要です。今までは、「ゾーンプレートの被写界深度が 深い」ことだけが強調されてきてボディキャップ・ゾーンプレート(図1)を使ってピント合わ せを行わないで撮影するのが普通でした。しかし、ゾーンプレートは色収差が極端に大きくて何 をどのような光学的条件のもとで撮るかによって「支配的な光の波長」が異なり撮影に際しての 実際の焦点距離が設計値とは同じとは限らないために、多くの場合、ピント合わせをすることが 必要になります。同じレンズレス写真であるピンホール写真の場合、像距離に応じて「ちょうど良 い大きさのピンホール半径」があるものの、ピンホール半径を決めても焦点距離が決まるわけで はありません。

図1 ボディキャップ・ゾーンプレート
 カメラのボディキャップに小さな穴を開けて、そこにフィルム製のゾーンプレート・パターンを 貼り付けたもの(右図)を一眼レフに取り付ける(左図)。この場合、ゾーンプレートの焦点距 離はほぼカメラのフランジバックの長さに合わせます。

このようなわけで、ゾーンプレート写真の撮影にあたっては、レンズ交換式カメラに取り付ける像距離可変の「交換レンズ」に相当する「交換ゾーンプレート」を取り付けたゾーンプレート・カメラを用いることが望まれます。交換ゾーンプレートに求められる重要な機能の一つは像距離の長さが可変であることです。この機能はカメラのレンズ用のヘリコイドを使えば簡単に実装できます。 この時必要なのは(被写体とゾーンプレート間の距離だけ変えられれば良くて)レンズを操作する ための電子回路用接点などが組み込まれていないヘリコイドなので、eBayなどの通信販売で比較 的安価に購入することができます。さらに手軽な交換ゾーンプレートとしては、ヘリコイドの代わ りに2本の紙筒(プラスチック筒)を滑らせて長さが可変のパイプを作って使うことです。この装 置では、1本の紙筒を隙間なくもう1本の紙筒に挿入することができて、しかも、長さの調節は 滑らかに行えなければならないという条件があるのでちょうど良い太さの紙筒を用意することが やや難しい点ですが、工夫によって克服可能です。これらについて下にやや詳しく説明します。

紙筒(プラスチック筒)製の簡易交換ゾーンプレート

最も手軽に交換ゾーンプレートを作るために下に示すような材料を用意します。それぞれのサイ ズ等は厳密に決められるものではありません。全体の構成を考えて入手可能なサイズのものを用 意すれば十分です。

1) ゾーンプレート・パターン(フィルム)
2) 直径20 ~ 40 mm程度、長さ50 mm程度の紙筒またはプラスチック製の筒
3) 上の紙筒に隙間なく滑らかに挿入できる太さの紙筒またはプラスチック製の筒
4) 使用するカメラに適合するリバース・アダプター
5) プロテクター・フィルター
6) ステップアップ・リングまたはステップダウン・リング

これらの材料を使って作成した交換ゾーンプレートの写真を図2に示します。この写真の交換 ゾーンプレートは、直径 40 mm および 42 mm のプラスティック製の雨樋(縦)、micro 4/3 – 52 mm リバース・アダプター、直径 52 mm プロテクター・フィルター、58 mm – 52 mm ス テップダウン・リングを使用してあります。私の使用するカメラはオリンパスのミラーレス一眼 (micro 4/3)ですので上のようなリバース・アダプターを用いています。リバース・アダプター をカメラに装着するとネジの部分が表に出ますから、そこにステップダウン・リングの雌ネジの 部分を装着し、ステップダウン・リングの雄ネジ側に直径42 mmのプラスティックパイプを接着 剤で固定してあります。

重要なことは、2本の筒が隙間なく組み合わさり、かつ、ピント合わせのために滑らかに動くことです。このために直径がわずかに異なる2種類の筒を用意する必要がありますが、もし適当 な筒が見つからない時には少し隙間が大きくなる筒の組を用意して内側の筒にはテープを巻いてちょ うど良いサイズにすることが必要になります。また、上に記した各サイズはこの筒のサイズに合 わせて都合の良いサイズに決めることができます。図の筒の場合は、内側に来る筒にアルミのテー プを貼り付けて太さを調整してあります。フィルム製のゾーンプレート・パターンは、内側の筒の 先端につけるか、あるいは、内側の筒を延長チューブとして、この先にゾーンプレート・パターン のついて筒をつける等の方法が考えられます(図2)。なお、筒の内側は光の反射を少なくする ために黒くしておくことが望まれます。

また、カメラに装着する部分を、カメラのボディキャップ(プラスチック製)の中央に穴を開 けたものにして、プロテクター・フィルターの代わりに透明なプラスティック板を貼り付けてから 外側の筒をこれに貼り付けるようにすれば、上記の4)~6)が不必要になり、費用もかなり安 価になります。

なお、途中にプロテクター・フィルターが入っている理由は、ピント合わせ操作やゾーンプレー ト交換の際にディジタル・カメラのセンサーにゴミがつかないようにするためです。ゾーンプレー トはレンズの場合と比べるとF-値がとても大きいためにセンサーに小さなゴミが付着しても大き な影響を受けます。このため、ゴミの付着には十分注意する必要があります。アナログ・カメラで はゴミの蓄積はありませんから、このようなことは考える必要がありません。したがって、この 場合には、リバース・アダプターではなくて使用するカメラのボディーキャップを加工して使うの が良いでしょう。図3は実際に作成して利用している交換ゾーンプレートの写真です。

図2  紙筒を組み合わせて作る交換ゾーンプレート(概念図)
 アダプターパイプ、中間パイプ、ゾーンプレートパイプを紙筒あるいはプラスチックの筒等で作 ります。

図3  紙筒を組み合わせて作った交換ゾーンプレート
 左図は交換ゾーンプレートを分解したところで、下の左から、リバースアダプター、プロテク ター・フィルター、アダプター・パイプ、ゾーンプレート・パイプ、上の右から、中間パイプ、ミ ラーレス一眼カメラです。右図がこれらを組み立ててカメラに装着した写真です。

ヘリコイドを用いた本格的交換ゾーンプレート

上のように、紙筒あるいはプラスチック筒を用いて可変長のパイプを作って交換ゾーンプレート を作る方法は、簡単で自由度が大きく、さらに安価であるという利点がありますが、適切な材料 を探すのは必ずしも容易ではありません。また、ピント合わせのためにパイプを滑らせて動かす 機構も必ずしもスムーズにできるとは限りません。そこで、レンズ付きカメラで用いるために作ら れた部品(既製品)である、ヘリコイド、マクロ撮影用延長チューブ、ボディキャップ等を用いて 交換ゾーンプレートを作成することを考えます。特定のカメラ専用に作られたヘリコイドや延長 チューブには、今回は必要でないような機能もついていて、一般に高価ですが、接続部を m42 の ねじ込み式に統一してシステムを組み上げることにすれば、比較的安価で十分な機能を持つ部品 を揃えることができます。現在、私が使っているシステムを図4〜図6に示しておきます。

図4  既製品のヘリコイド等を組み合わせて作る交換ゾーンプレート(概念図)
 ゾーンプレート・パターンを変更するために「C-マウント・ボディキャップ」を使います。フィ ルム製のゾーンプレート・パターンはプラスチックのC-マウント・ボディキャップに穴を開けて貼 り付けます。このボディキャップは、C/CSエクステンション・チューブ、m42-C変換アダプターを 介してm42-m42ヘリコイドに接続します。ヘリコイドはプロテクター・フィルター等を介してカメ ラに装着します。また、ヘリコイドを取り付けたことにより、ゾーンプレート・パターンの位置が 撮像面から離れてしまうので、C/CSエクステンション・チューブの向きは内向きにも外向きにも できるようなm42-C変換アダプターを使います。

図5  既製品のヘリコイド等を組み合わせて作る交換ゾーンプレート
 左図は、交換ゾーンプレートを分解したところで、それぞれは、(a) ミラーレス一眼カメラ、(b)リバースアダプター、(c) プロテクター・フィルター、(d) ステップダウン・リング、(e) m42-m42 ヘリ コイド、(f) m42-C 変換アダプター、(g) C/CS エクステンション・チューブ、(h) C-ボディキャップで 作ったゾーンプレートパターン、です。右図の(b’) は左図の(c)~(h) を結合してできた交換ゾーンプ レートです。

図6 ヘリコイド付き交換ゾーンプレートを装着したカメラ
 左図は上記ヘリコイド付き交換ゾーンプレートをミラーレス一眼カメラの Olympus E-PL6 に装着 した写真です。ゾーンプレート・パターンの部分は交換可能でしかもとても小さいので、ゾーンプ レートの種類、焦点距離、ゾーン数の異なるものをたくさん用意しておいて(右図)実験するのが 容易です。