焦点距離(撮像面までの距離)と光の波長を与えた時に、もっとも鮮明な像が得られるようなピンホールの「最適直径」を求める式は注釈4で示しましたが、それでは、このような最適の設計をした時にどれほど鮮明な像が得られるのでしょうか?もう少し具体的な質問にすると、ピンホール写真上でどの程度離れた2点を見分けることができるでしょうか?
解像力の限界
これは、半径 \(a\) のピンホールを使って無限に遠く(無限遠)にある点光源の像がどの程度広がってしまうかを計算すればわかります。幾何学的(数学的)に考えれば、この点光源の像は、大きさのない「点」になるはずですが、ピンホール直径の決定のところで記したように、光は波であるので回折現象によって広がって、撮像面上では次式で表される半径 \(b\) をもつ円になります(下図左側)。なお、\(\lambda, f\) は光の波長と撮像面までの距離を表します。$$b\cong \frac{3.832}{2\pi} \frac{\lambda f}{a}\cong 0.6098 \frac{\lambda f}{a}$$
ピンホールによる点光源の像
左図は撮像面上の光源の像を表しています。点光源の像は撮像面上で半径 \(b\)の円になります。半径\(b\)の円周は内側から数えて最初の最暗部で、その回りにも弱い光の輪が出来ます。右図は、縦軸を光の強さにして同じデータを3次元的に表した図です。
ここで、二つの点光源の像が長さ \(d\) だけ離れている場合、もし、\(d<b\)であると、もはや、この2点を見分けることは困難になります(下図左側)。もし、\(d>b\) ならば2つの像は分かれて見えます(下図右側)。したがって、この \(b\) を解像力の限界と見ることができます。望遠鏡の場合、\(b/f\) で「分解能」を定義します。
2つの点光源の像の間隔
2つの点光源の像が撮像面上に作られた時、\(d<b\) である(左図)と二つの像は見分けられないが、\(d>b\) ならば(右図)分離可能です。
相対解像度
ところで、画面いっぱいに太陽の像を写して黒点を調べるようなことを考えると、画面のサイズ\(S\)と解像度\(b\)の関係が重要で、相対解像度 (\(G\equiv S/b\)) が意味を持つようになります。これを、\(\lambda, f\) を使って表すと、$$G=\frac{1.28}{\sqrt{\lambda f}}$$となります。普通、写真などの場合、解像度は「単位長さあたりの画素数」を表しますが、ここで言う相対解像度は「画面の一辺あたりの画素数」のようなものです。太陽を画面いっぱいに写した時には、直径に沿っていくつ画素があるかを示しているようなものですから、この値が大きければ大きいほど太陽の細かいところまではっきりわかります。ところで、太陽のような天体は、実際上、無限遠にあるので、大きさを表す時には長さでなく「被写体を見込む角度」(ピンホールから撮像面を見込む角度と同じです)を使います。撮像面を見込む角度 \(\theta\) (ラジアン)と画面サイズ \(S\)の関係は、\(S=\theta f\)であらわせますから、相対解像度は、$$G=1.28 \theta \sqrt{\frac{f}{\lambda}}$$ のように表すことも出来ます。これは、焦点距離(撮像面までの距離)を大きくして倍率を高めれば相対解像度が良くなることを表しています。太陽の視直径はほぼ \(32’\)(=0.00931ラジアン)ですから、これを画角にとって波長\(550 nm\)の光に合わせると、この式は$$G_{sun}\cong 0.51 \sqrt{f} $$となります(\(f\) の単位は\(mm\))。注意しなければいけないのは、この式は対象を見込む角度\(\theta\)を一定にして考える時の式ですから、ピンホールから撮像面までの距離を長くして対象物が大きく写るようになれば撮像面もそれに応じて大きくしていく場合のことです。一眼レフカメラにピンホールを付けて写真を撮るような場合には、画面サイズ \(S\)を含んだ次式を使わなければなりません。$$G=\frac{1.28S}{\sqrt{\lambda f}}$$この式では焦点距離\(f\) の効き方が逆になっていますから注意が必要です。
まとめ
参考のために、焦点距離 \(f\) の関数として、ピンホール直径の式 \(D\cong0.0366 \sqrt{f}\)、太陽を見る時の相対解像度の式 \(G_{sun}\cong 0.51\sqrt{f}\)、撮像面サイズを与えた時の相対解像度の式\(G=55S /\sqrt{f}\) のグラフを示します。なお、ここで光の波長は\(550 nm\)としてあります。
ピンホール直径の焦点距離依存性
左図は(\(0\leq 500\))、右図は(\(0\leq 5000\))の範囲について。
相対解像度
左図は太陽を見る時(画角一定)、右図は一般の相対解像度。