撮影と画像処理_6:ゾーンプレートHDR写真


鮮明な仕上がりのゾーンプレート写真

もともとゾーンプレート写真が持っている高い分解能を生かすために、デジタル・カメラで撮影したゾーンプレート写真のレベル調整をしてかすみをとれば良い事を述べました。ゾーンプレート写真には、写したい被写体とその「ハロー」、および被写体の周りの環境光による「かすみ」(ゾーンプレートを通過しても焦点を結ばずに直進する光を便宜上このように呼んでおきます)が写り込んでいます。環境光は被写体からの光に比べて弱いとは言え面積が広いので写真全体に広がってしまってコントラストの弱い写真となってしまい「ゾーンプレート写真はピンホール写真より一層ソフトである」という「誤解」を生じてしまいます。幸い、環境光による「かすみ」は画面全体であまり大きくは変化しないと思われるので、全体からある一定量の明るさを差し引く事で「かすみ」のない鮮明な写真ができるというのがそのアイデアでした。このような操作をしても、シャープで明るい被写体の周りに局在するハローはほとんど失われませんから依然として「ゾーンプレート写真らしい性質」は残っています。もっとも,この操作によって写真の実質的なダイナミックレンジが小さくなってしまいます。写真のダイナミックレンジとは表現できる一番暗い明るさから一番明るい明るさまでの幅の事で、通常、256段階ありますが、上の操作で取り去られた「かすみ」の持つ段階数だけレンジが減り一番明るい明るさのレベルが下がってしまうので、写真は期待したよりも暗いものになってしまいます。

HDR(High Dynamic Range)写真

人間の眼は、自動調節機能も手伝って、非常に広い範囲の明るさを感じることができます。これに対して写真の場合、カメラのセンサー、メモリー、電子回路、あるいはモニターの都合でダイナミックレンジ(明るさの範囲)は人間の眼に比べてかなり狭い範囲に制限されています。被写界が明るすぎてこの範囲の外側になると真っ白になってしまうし、暗すぎて範囲を外れた場合には真っ黒になってしまいます。人間が目で見るならば、真っ白な部分にも、真っ黒な部分にも、明るさの段階的変化があって細かい状況を見ることができます。このため、被写体を直接見る時と写真にしてみる時では印象がかなり違う事がしばしばあります。そこで、高いダイナミックレンジを持つカメラを作り、高いダイナミックレンジを持つモニターで見れば良い訳ですが、これは容易ではありません。最近人気の方法は、露出を変えた複数枚の写真を撮影して(bracketing)、これらをソフトウエアで合成して高ダイナミックレンジ写真(HDR写真)を作る方法です。この際、HDR写真を合成しても、普通のモニターのダイナミックレンジ内には納まりませんから、トーンマッピング(Tone Mapping)という操作をして普通のダイナミックレンジに納まるように明るさの幅を圧縮します。このようにすれば、写真のダイナミックレンジは普通通りですが、被写体の明るさについては広い範囲の明るさが記録されている「擬似的HDR写真」ができ上がります。このようにして作った写真を、通常、HDR写真あるいはHDRI (High Dynamic Range Image)、と言います。HDRIはHDRI作成技法やそのファイル・フォーマットのことも指します。このための操作をするためのソフトウエアは多数出回っていて入手も簡単です。有料のソフトウエアでは, Photomatixが有名です。また、フリーウエアにはCinePaint, HDRtist, qtpfsgui等があります。Tone Mappingも含めてHDRのためのアルゴリズムはそれほど複雑なものではありませんから、自分で専用のプログラムを作成して実行している人も多くいるようです。

ところで、標準的な疑似的HDR写真は露出の異なる複数の写真を合成することによって暗い部分と明るい部分の詳しい情報を写真に取り込むのですが、同じ写真から3枚の写真を複製して、露出オーバーの写真、露出アンダーの写真、普通の写真と解釈して合成する(Photomatix等)、あるいは、一枚だけの写真について適切なトーンカーブを採用して調整する(HDRtist等)という簡易型疑似的HDR写真(擬似的な擬似的HDR写真!!)もあります。ハイライト部やシャドウ部でトーンカーブを緩やかにして、その部分の詳細を表現できるようにすることで疑似的にHDR的な効果が表現されます。このようにして作った写真を、通常、PHDR (Pseudo-HDR)あるいはFHDR (Fake HDR)と呼んでいます。この場合、本当にダイナミックレンジが広がる訳ではありません。しかし、写真の中で非常に暗い部分(シャドウ)や非常に明るい部分(ハイライト)は詳細な情報を含んでいてもあまりよく見えないものですが、擬似的な擬似的HDR写真にすることによってこれらの部分の詳細が浮き上がってきてかなり違った写真としてよみがえります。

HDR−ゾーンプレート写真

これまでに書いた方法でゾーンプレート写真を鮮明にすることはできましたが、暗い部分の詳細がつぶれてしまってよく見えません。そこで、簡易型疑似的HDRーゾーンプレート写真を作ってその効果を調べました。ブラケット撮影をする必要がありませんから、過去に撮りためた写真を加工するだけです。まだ十分な最適化は行っていませんが、暗い部分や明るい部分の詳細も見えて、かなり満足できる写真ができました(図1)

図1 HDR処理の例
 左列は霞除去処理をしただけのゾーンプレート写真、右列はこれに加えてHDR処理を行った写真です。