原理_4:被写体像のできるわけ


ここまでは、無限の彼方(無限遠)にある点光源から来た光(平面波、平行光線)がゾーンプレートに垂直に入射するときに点光源の像が焦点にできるという事を説明してきました。これだけでは、例えば、静物写真を撮る時にその静物上の一点(これはゾーンプレートから有限の距離に有りますし、一般にゾーンプレートの光軸上にはありません)の像ができる事を保証していません。

ゾーンプレートを使うことで撮像面に被写体の像ができて写真が撮れる事を説明するためには、「ゾーンプレートから有限の距離にある点光源の像も撮像面上にできる」ことと「ゾーンプレートに斜めに入射する光線によってでも像ができる(ゾーンプレートの光軸の上にない光源の像もできる)」ことを示さなければなりません。

このために、「ゾーンプレート(焦点距離:\(f\) )から有限な距離 \(a\) にある点光源の像が、ゾーンプレートから距離 \(b\)のところに置かれた感光面上にできる」として、\(a, b, f\) の間の関係を表す「結像の公式」「点光源が光軸上から外れたところにある場合の像のでき方」について明らかにしておきます。
 
 

結像の公式

(無限遠の点光源の像だけでなく)「有限の距離だけ離れたところにある点光源の像もできる」ということを定量的に言うならば、「ゾーンプレートの光軸上で \(a\) だけ前方に置かれた点光源の像がゾーンプレートの光軸上 \(b\) だけ後方にできる」という事になります。この時、 \(a\) と \(b\) の関係は、焦点距離 \(f\) を使って、
$$\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}$$

と書くことができます(注釈_2、結像の公式)。これを \(b\) について解けば、ゾーンプレートの光軸上 \(a\) だけ前方にある点光源の像は、ゾーンプレートの光軸上

$$b=\frac{af}{a-f}$$
だけ後方にできる事がわかります(図1)実は、この「結像の公式」は、レンズの場合の「結像の公式」と全く同じ形をしていますレンズの場合には、この公式は「光軸に平行に進んできた光はレンズを通過すると焦点に向かって直進する」という事と「レンズの中心を通過する光は屈折せずに直進する」という事を使えば、簡単な幾何学だけで証明できます。ゾーンプレートの場合も注釈_2に示すように簡単に証明できますが、レンズの場合とは違う根拠によって同じ結論が得られるのです。

 

図1 ゾーンプレートの結像の公式
 無限の彼方の点光源からの光線(緑、平面波)はゾーンプレートに垂直に入射すると位置 \(f\)にある焦点Fに収束します。位置 \(-a\)にある点光源Aからの光線(赤、球面波)はゾーンプレートに入射すると位置 \(b\) の点Bに収束します。\(a,b,f\)の関係は結像の公式で表されます。

光軸から外れたところにある点光源の像

これまでに述べてきたゾーンプレートの原理は、ゾーンプレートの位置で全ての光線が同じ位相である(ある時点で、光の波の山なら山、谷なら谷にそろっているということ)事を前提にしていますが、光線がゾーンプレートに垂直に入射しない時(斜め入射)には、ゾーンプレート上で場所によって位相に違いが出てきてしまいます。垂直入射から非常に大きく傾いている場合には、もはや、光源の像はできないであろうと想像できます。光線がゾーンプレートに対して垂直方向から角度 \(\theta\) (ラジアン)だけ傾いて入射するとして、どの程度の角度まで傾き \(\theta\) が許されるかについての計算は 注釈_3に示してあります。この計算の結果、次の条件(\(\theta ^ 2\) が1に比べて十分小さい)が満たされれば斜め入射の光線に対してもゾーンプレートは像を結ぶ事がわかります(図2)

$$\theta ^ 2 \ll 1$$

この条件が満たされれば、ゾーンプレートから被写体までの距離 \(a\) と撮像面までの距離 \(b\) は、それぞれ、垂直入射の時と同じですから、点光源の像だけでなく広がりのある物体の像も撮像面上にできる事が保証されます。

図2 ゾーンプレートの光軸上にない点光源の像
 ZP:ゾーンプレート、FP:焦点面、OP:有限の距離 \(a\) にある光源の乗っている面、IP:像面。緑の細線は光軸上の無限遠にある点光源からの光線で、ZPからfだけ離れている点Fに焦点を結びます。この時、緑の太線は光軸と \(\theta\) ラジアンだけ傾いた方向の無限遠にある点光源からの光線で点Fと同じ焦点面FP上の点F’に焦点を結びます。また、光軸上の点光源A(ゾーンプレートから \(a\)の位置)から出た光線(赤い細線)は点B(ゾーンプレートから \(b\)の位置)に集まります。この時、Aの乗っているOP面上で光軸と\(\theta\)ラジアン傾いた線上の点光源A’から出た光線(赤い太線)はBと同じく像面IP上のB’点に集まります。\(a, b, f\)の間にはゾーンプレートの結像の公式が成り立ちます。

 このホームページに載せてあるゾーンプレート写真は、特に記してない限り、全てフォーサーズ規格のセンサーを持つ一眼レフあるいはミラーレス一眼カメラを使って撮影したものです。これらのカメラはレンズ交換式カメラとしてはセンサーサイズが小さくて上の条件を満たすかどうか懸念されますが、以下に示すように、この条件は十分満たされています。例えば、フォーサーズ規格の一眼レフ(あるいは、ミラーレス一眼カメラ)に焦点距離55 mmのゾーンプレートをつけて撮影すると、画角はほぼ(イメージサークルの半径/焦点距離)で表わせますから、\(\theta \approx 10.5/55 \) なので \(\theta^2 \approx 0.036\) となります。「この値は1に比べて充分小さい」と言っても差し支えありませんから、このゾーンプレートによって \(b\) の位置に像ができる条件を満たしています。実際、このゾーンプレートで、ゾーンプレート写真展示室にあるように正常に写真が撮影されています。
 
ところで、ピンホール写真にはこのような制限はありません。当然のことながら、ピンホール写真でも感光面上において光軸から離れると、光点の像は大きくなりボケてきて暗くなりますが、むしろこのような描写が珍重されることもあって、ピンホール写真では広角の撮影が標準的であるとも言えます。これに対して、ここで述べたような条件もあってゾーンプレートは画角の小さな望遠撮影や高倍率マクロ撮影を得意とします。