撮影と画像処理_4:鮮明な仕上がり(1)


鮮明な仕上がりのゾーンプレート写真を作る

「ゾーンプレート写真の解像力とコントラスト」のところで述べたように、本当はゾーンプレート写真はシャープなのです。ゾーンプレート写真が普通のピンホール写真よりもソフトに見える第一の原因は「背景光」であると考えられます。背景光以外では、色収差がゾーンプレート写真のソフトさに大きく寄与しているものと思われます。被写体、光、その他の撮影条件の違いによってどの原因が強く働いているかが違っているはずです。ここでは、まず背景光を除いて鮮明な写真を作ってみます。 背景光の詳しい話は後にいたしますが、ここでは、対象とする中心的な被写体からの光以外の光による背景光について考えます。

背景光によって写真がソフトになる現象は、いくらシャープに描かれた図や写真から作ったスライドでも明るい部屋で投影すればコントラストの低いぼやけたものになってしまうことを考えればわかります。この場合、部屋の電気を消したりカーテンで外の光を遮へいすれば本来のシャープな図や写真を見ることが出来ます。この原理がわかれば、デジタル・カメラで撮ったゾーンプレート写真の場合、「背景光」を取り除いてより鮮明な画像を作るのは簡単です。もちろん、対象とする被写体からの光以外の光による「背景光」の強さは写真上の位置によって異なりますが、その変化は被写体の像を作っている光の強さの変化に比べると緩やかですから、画面全体から一定量の光を一様に差し引くことでかなりの効果が見られます。これは、基本的には、ヒストグラムをそのまま左の方に移動することに相当します。ゾーンプレート写真の特徴であるハローを形成しているのは、発生した原因からわかるように、全画面を通じて一様ではない光ですから、一様な背景光を取り除いてもこの光は残ります。この操作は、PhotoshopやGIMPのような画像処理ソフトあるいはimageJのような画像解析処理ソフトを使えば簡単に実行できます。これらのソフトのトーンカーブ機能を使ってヒストグラム全体を左に移動して左の方の画素数がゼロの部分をなくしてしまうことで、近似的に霞がとれたものと考えられるからです(図1)。ゾーンプレート写真はもともとシャープな写真のデータを含んでいますから、「背景光」を取り除くことで、下の例に示すように、ピンホール写真より鮮明な写真にすることが可能です。 ゾーンプレート写真特有の美しいハローは明るい被写体による局所的な背景光によるものですからこの操作では失われずに残っています。葉脈等を見るとピンホール写真よりゾーンプレート写真の方が分解能が高いことがわかります(図2)

ゾーンプレート写真のトーンカーブ調整

ここでは、トーンカーブの調整によってゾーンプレート写真の「かすみ」を取り除く方法を、具体的に説明します。

まず、ヒストグラムとトーンカーブについて説明します。ヒストグラムは横軸に明るさのレベル(256階調)をとり、各レベルの画素数をグラフにしてあります。図1の左上図ははオリジナル写真のヒストグラムで、左の方の画素(暗いレベルの画素)がありません。これは背景光のため全ての画素が明るくなるようにかさ上げされているためです。ところで、この写真についてのトーンカーブ操作の画面は図1の左下図のようになります。このグラフでは横軸は左上の図と同様に「今対象としている写真の」明るさレベルがですが、重要なのはヒストグラムに重ねて描かれている曲線の値を表す縦軸で、これは「調整後の写真の」明るさのレベルを表します。この図で言えば、グレイのトーンカーブは横軸上の点を同じ値を持つ縦軸上の点に対応させていますから、全く調整が行われないことを表します。これに対して、グレイのトーンカーブを下の方に並行移動してできた黒いトーンカーブは横軸上の点を一定数だけ小さな値を持つ縦軸上の点に対応させています。したがって、この黒いトーンカーブを採用すれば、すべての画素から一定の明るさを差し引いた写真が出来上がることになります。このような操作を行った後のヒストグラムは図1の右上図のようになります。まさにヒストグラムが形を保ったまま左に移動して、この写真には最も暗いレベルの画素も存在しており、背景光の影響が軽減されています。

図1 トーンカーブ操作でヒストグラムを変更してかすみをとる手順

トーンカーブ操作でかすみをとった例

上の操作で背景光の効果を軽減してシャープな写真を得た例を示します。対象とした被写体は、コンフリーの花、スイレンの葉、及びスイセンの花で、図2の上から順に示してあります。左の列はこれらの未処理オリジナル・ゾーンプレート写真で、中央の列がかすみ取り操作を行って得た写真です。比較のため、右端の列には同じ被写体のピンホール写真が示してあります。写真をクリックして拡大して見ると、背景光を取り去ったゾーンプレート写真がピンホール写真よりシャープであることがよくわかります。

図2 背景光による霞を除去して鮮明にした写真
 左の列、中央の列、および右の列の写真は、それぞれ、オリジナルのゾーンプレート写真、トーンカーブ操作でかすみをとった写真、およびピンホール写真です。

誤解をさけるために「この方法はいつでも使えるわけではない」ことを強調しておかなければなりません。デジタル・カメラの感光素子においては、各画素各色はダイナミックレンジ(最も明るいデータから暗いデータまでの範囲)を256の段階に分割してレベルを表現していますが、強すぎる背景光を上のようにして差し引くと被写体を表す段階数が減ってしまいます。明るさや色によっては元々鮮明にならないような条件で撮影された写真もあります。

なお、Photoshopの「かすみをとる」等の機能が使える場合には、この機能によって、上にしるした操作をワンタッチで行うことも可能です。