応用_2:非可視光による撮影


ゾーンプレートを、レンズと比較した時の大きな違いの一つは、光の経路に全く物質がないようにできることです(振幅型ゾーンプレート)。このホームページで扱っているゾーンプレートはフィルム上にゾーンプレート・パターンをプリントしたものですから、「フィルム」という物質がありますが、これは作りやすさのためであって、本来、ゾーンプレートにおける光の通り道には何も存在しなくてもよいのです。ガラスやプラスチックのレンズは可視光を屈折させて写真を撮るために開発されたものですから、可視光以外の電磁波でレンズと同じ働きをする光学素子を用意することは難しかったり、不可能であったりします。このような場合、フレネル・ゾーンプレートは極めて有用で、すでに、軟X線による写真撮影などに実用化されています。

X線は可視光に比べると、はるかに波長が短かく、適切に屈折させる物質も見当たらないので、回折現象を使ったゾーンプレートによってレンズと同様の機能を持たせることが有用です。しかし、金属などに穴を開けた小さなゾーンプレートを作る必要がありますから、可視光用のゾーンプレートのように素人が簡単に作ることはできません。そこで、可視光以外の電磁波にゾーンプレートを使う例として、赤外線写真と紫外線写真の撮影を試みた結果を以下に記します。レンズを使ったカメラによる赤外線写真撮影及び紫外線写真撮影の詳細については別項を参照してください。赤外線ゾーンプレート写真、紫外線ゾーンプレート写真のいずれについても、可視光写真撮影に使ったものと同じゾーンプレートを異なった焦点距離のもとで使っています。ここで問題になるのは、ゾーンプレート・パターンの不透明部分(感光部分)が赤外線や紫外線に対して、必ずしも、不透明ではないことです。このために、撮れた写真の鮮明さは可視光によるゾーンプレート写真には及びませんが、光の波長と焦点距離の関係などは理論通りの結果が得られていることがわかります。

赤外線ゾーンプレート写真

波長550 nm の可視光による写真撮影のために作ったゾーンプレート(焦点距離=150mm、ゾーン数=33)を使って赤外線ゾーンプレート写真を撮影しました(図1)。可視光によるゾーンプレート写真撮影の時の設定波長は、可視光の波長領域(400 nm ~ 700 nm)の中心である550 nm としましたが、赤外線による写真撮影の場合はいくらにすれば良いのかの基準はありません。太陽からの近赤外線の光量は波長が長くなるほど低下しますから、赤外線透過フィルターの限界波長が700 nm程度の場合の設定波長は750 nm ~ 900 nm程度とするのが妥当と思われます。一般に使われているデジタルカメラのセンサーは波長が1000 nm程度の光まで感度がありますが、可視光で撮った写真に赤外線の効果が現れるのを防ぐために700 nm程度以上の光を遮断する赤外線遮断フィルターをセンサーの前に付けてあります。ここでは、赤外線の実効波長が800 nmであるとして計算して、このゾーンプレートの焦点距離は103 mmであるとしました。実際の撮影は、限界波長が700 nmである可視光遮断赤外線透過フィルターIR70(波長が700 nm以上の光だけを通すフィルター)を用いて、ゾーンプレートから撮像面までの距離を90 mm ~ 120 mm程度の間で可変にして行いました。カメラは上に述べた赤外線遮断フィルターを取り除いてフルスペクトル化したOlympus OM-D E-M5を使いました。また、比較のために可視光によるゾーンプレート写真の撮影も行いましたが、このために用いたゾーンプレートは、波長550 nmに対して焦点距離100 mmでゾーン数は39のものを用いました(図2)。これによって、上に記した赤外線及び可視光のピンホール写真、赤外線及び可視光のゾーンプレート写真のいずれも撮像面までの距離が100 mm ~ 110 mm程度となり、ほぼ同じ画角の写真が得られます。参考のため、レンズを通して撮影した赤外線写真と可視光写真を、図3図4に載せておきます。

図1 茨城県庁ビルの赤外線ゾーンプレート写真
波長550 nm に対して焦点距離 135 mm(波長 800 nm に対して92.8 mm)、ゾーン数 33のゾーンプレートを使用。ゾーンプレートから撮像面までの距 離:110 mm、カメラ:Olympus OM-D E-M5 (converted)、フィルター:SC70、シャッター速度:0.01 sec、ISO:1600

図2 茨城県庁ビルの可視光ゾーンプレート写真
波長550 nm に対して焦点距離135 mmゾーンプ レートから撮像面までの距離:135 mm、カメラ:Olympus OM-D E-PL6、フィルター:なし、シャッ ター速度:0.01 sec、ISO:1600

図3 レンズ付きカメラで撮った茨城県庁ビルの赤外線写真
カメラ:Olympus OM-D E-M5 (converted)、レンズ:Zuiko Digital 12-50 3.5-6.3、フィルター:IR72、F/7.1、シャッター速度:0.008 sec、ISO:200

図4 レンズ付きカメラで撮った茨城県庁ビルの可視光写真
カメラ:Olympus Stylus TG-2、F/6.3, シャッター速度:0.0025 sec、ISO:100