ピンホール写真の撮影


ピンホール・カメラの製作

ピンホール写真を撮る時にまずしなければならないことは、もちろん、「ピンホール・カメラ」を用意することです。私は、通常、一眼レフカメラを使って「レンズレス写真」を撮影していますから、カメラの「交換レンズ」に相当する「交換ピンホール」を作り、そのピンホールを一眼レフカメラの交換レンズのかわりに付ければ、それでおしまいです。このように、市販のカメラをベースにしてピンホール写真を撮ることには、次のような色々な利点があります。1)カメラ作りの手間がいらない。2)高感度フィルムが簡単に使える。3)露出の設定などが簡単である。4)現像を写真屋さんに頼める。等々。これらは、フィルム・カメラの場合ですが、デジタル・カメラではさらに色々の利点を付け加えることが出来ます。しかし、これらの利点は、「何でも自分でやってみる」という「自作ピンホール・カメラ」を使うピンホール写真の撮影に伴う楽しみを奪うものでもあるわけですから、人によっては、そのまま、欠点であると言うことも出来ます。自作ピンホール・カメラによる楽しみかたについては色々な書物もでていますしウエブ上にも沢山の記事が出ていますからここでは述べません。 一眼レフカメラをピンホール・カメラにする最も簡単な方法は、カメラのボディキャップ(レンズを外したときにカメラ内部に埃が入らないようにするためのフタで通常プラスチック製)の中心に大きめの穴を開けてそこにピンホールをあけた金属板(アルミニウム、真鍮等)を貼り付ける方法です。私は、焦点距離を変えたりゾーンプレート2段スリット板に交換したりするのに便利なように、ボディキャップには大きな穴を開けてボール紙の筒を取り付けてその筒にぴったりとはまるような(ピンホールやゾーンプレート、2段スリット板の付いた)第2の筒を取り付けられるようにしてあります。この第2の筒を交換することでいろいろなピンホール、ゾーンプレート、2段スリット板による撮影ができるようにしてあるのです。

交換ピンホール
オリンパスE-シリーズ用に、紙筒、ボディキャップ、アルミニウム・シート、アルミ箔等から作成したアダプターとピンホール      

 

ピンホールの設計

ピンホールを作る時、そのピンホールの直径はいくらであればよいのでしょうか?ピンホールの大きさが小さければ入ってくる光の量は減るので必要な露光時間は長くなってしまいますが、ピンホールの穴が小さければ小さいほど鮮明な像が得られそうな気がします。はたして本当にそうなのでしょうか?穴の大きさがある程度大きいときには、確かに、穴の直径を小さくするに従ってより鮮明な像が得られるようになります。しかし、ある限界を超えて穴の大きさを小さくすると、今度は像はぼけ始めるのです。これは、「ゾーンプレート」のところで述べてある「光の波の回折現象」によるものです。簡単に言ってしまえば、穴の大きさを小さくすると、穴を通った後でピンホール板の陰に回り込む回折光の量も穴の実体部分を直進する光の量も両方ともに減少するのですが、回折光の減少量に比べて直進光の減少量の方がはるかに大きいので、穴を小さくするに従って回折光の影響が相対的に強まって像がぼけてしまうのです。だから、穴の直径をむやみに小さくすることは像を鮮明にすることにはならないのです。 それでは、いったいピンホールの直径(\(d\) )は具体的にはいくらにしたらよいのでしょうか(注釈4)? 無限に遠く(無限遠)にある点光源からの光線が半径 \(a\) の円形の穴を通って感光面(撮像面:フィルムやセンサー等)上に像を作る時、回折のために広がって半径 \(a’\) の円になってしまいます。そこで、\(a(=d/2)=a’\) となるようにピンホールの直径(\(d\) )を決定してこれを最適直径と考えます。このようにすると、\(d \cong 2 \sqrt{0.6098 \lambda f} \) \(\cong 1.56 \sqrt{\lambda f}\) となります。ここで、\(f\), \(\lambda \) は、それぞれ、焦点距離と光の波長を表しています。可視光の波長は、\(400 – 700 nm\)(ナノメートル:\(1 nm = 0.000001 mm\))と幅がありますからその大きさを厳密に決めることは出来ませんが、普通は、 代表的な光の波長を一つ決めて、それに合わせてピンホールの直径を決めます。光の波長として、\( \lambda = 550 nm\) \( (5.5 \times 10^{-4} mm) \) を採用すれば、ピンホール直径と焦点距離を\(mm\) の単位で表して \(d \cong 0.0366 \sqrt{f}\) 程度にとればよいことがわかります。このようにピンホール最適直径は焦点距離のルート(二乗根)に比例するのですが、光の波長に幅があることを考えると、普通のカラー写真を撮る時には、ピンホールから感光面までの距離が数センチから十数センチ程度の一眼レフカメラや手作りカメラについては\(0.2 – 0.5 mm\) 程度の直径をもつピンホールを用意すればよいことになります。実際、ピンホールの最適直径は、波長  \( \lambda= 550 nm\) では焦点距離  \( f = 50, 100 mm\) に対して、それぞれ、\( d=0.26, 0.37 mm\) となり、可視光の波長範囲 \( \lambda= 400\) ~ \(700 nm\) を考えると、焦点距離  \(f = 50, 100 mm\) に対して、それぞれ、\(d= 0.22 – 0.30 mm\), \( 0.31 – 0.42 mm\)となります。

デジタル一眼レフ・カメラ(DSLR)によるピンホール写真撮影

私がフィルム・カメラ用の一眼レフを使ってピンホール写真を撮り始めてしばらくすると、世の中はフィルム写真からデジタル写真の時代へと変化しはじめました。長年愛用してきたオリンパスのOMシリーズのカメラも次々と製造中止になって、ついにデジタル・カメラに乗り換える日がやってきました。デジタル・カメラも、ピンホール撮影にはオリンパスの一眼レフE-300を使っています。使ってみると、デジタル一眼レフは、まさに、ピンホール撮影に向いていることがわかってきました。なにしろ、撮影すると、すぐに結果が分かるので、よい写真が撮れるまで何度でもその場で試してみることができますし、何枚とっても、現像やプリントによけいな費用はかかりません。暗室で、ゆっくり画像が現れてくるのをドキドキしながら待っているというピンホール写真の楽しみは失われてしまうのですが。

ピンホールを付けたデジタル一眼レフ・カメラOlympus E-300        

 

 

 

 

デジタル・ピンホール写真にも泣き所はあります。フィルムに相当するセンサーが、一般に、小さいことです。画像の解像力(注釈5)はピンホールの大きさや焦点距離で決まってしまいますから、いくら画素数の大きなセンサーを備えたデジタル・カメラを持ってきてもセンサーの大きさが小さいと解像力をあげることはできないからです。手作りピンホール・カメラのように大きなフィルムや大きな印画紙を感光面に置いて、より鮮明な写真を撮るということは、デジタル・カメラではできません。特に、私が愛用しているオリンパスのEシリーズ・デジタル一眼レフカメラは「フォーサーズ」という規格で、市販されているデジタル一眼レフカメラの中では、最も小さなセンサーを使っているので、ピンホール撮影には不利になってしまいます(35 mmフィルムの撮像面の大きさは36mm x 24 mmですがフォーサーズ・センサーの大きさは17.3 mm x 13 mmです)。それでも、私がEシリーズのカメラを使っているのはこのシリーズのカメラのゴミゼロ機能(ダスト・リダクション機能:センサー面についたゴミや埃を排除する機能)が優れていて、普通の交換レンズに比べると(多分)かなり「埃が付いている」と思われる「ピンホール・レンズ」であっても安心して着脱できるからなのです。あるいは、気持ちだけかもしれませんが。