注釈_7:副焦点

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副焦点のできる理由

ゾーンプレートの特徴の一つは、屈折現象を使っているレンズと異なり、多数の焦点を持っている事です。 光の波長 \(\lambda\) と焦点(主焦点)距離 \(f\) を指定して作ったゾーンプレートは、主焦点(\(f_{\pm 1}=\pm f\)) の他に無限に多くの副焦点(\(f_{\pm 3}=\pm f/3\), \(f_{\pm 5}=\pm f/5\), …\(f_{\pm (2N+1)}=\pm f/(2N+1),…\)) を持っています。ここで、プラスは光源と反対側にできる焦点で凸レンズの焦点に当たり、マイナスは光源の側にできる焦点で凹レンズの焦点に当たります。主焦点以外の焦点を副焦点と呼びますが、副焦点の焦点距離は主焦点の焦点距離を奇数で割った値になっています。なお、この副焦点があるのはフレネル・ゾーンプレートであって、ガボール・ゾーンプレートには副焦点は存在しません。また、統一的に表す為に、直進する透過光に対する焦点を0次の焦点と呼び、その焦点距離は無限大です(\(f_0=\infty\))。では,ゾーンプレートではなぜ沢山の焦点ができるのか考えてみましょう。それにはフレネル・ゾーンプレートのパターンがどのように構成されているかを思いだす必要があります。既に述べてきたように、光軸に平行な光線がゾーンプレートに入射した時、各ゾーンの外側の円周(\(r_o\))のところをすれすれに通った光は内側の円周(\(r_i\))のところをすれすれに通った光に比べて半波長分だけ遅れて主焦点に到着するように、ゾーン境界の円の半径が決められています。この時、ゾーンを交互に透明、不透明にすると隣り合う透明ゾーンを通過した光は1波長分だけずれているので、主焦点のところで互いに強め合って光を収束させることができるのです。この関係は、式で書くと、
$$\sqrt{{r_o}^2+f^2}-\sqrt{{r_i}^2+f^2}=\frac{\lambda}{2}$$
となります。中心のゾーンでは、\(r_i =0.0\) ですから、中心円の半径は
$$r_1 \cong \sqrt{\lambda f}$$
となり、外側に向かって順に円の半径を計算していけば、n番目の円の半径(\(r_n\))は、
$$r_n \cong \sqrt{n \lambda f}$$
となるわけです。

ところで、もし隣り合う2つの円周のところを通る光の波長のずれを、半波長の整数倍にしたらどうでしょうか?偶数倍にすると同じ透明ゾーンの中を通った光が完全に打ち消し合ってしまうのでゾーンプレートとしては成り立ちません。奇数倍にすると、打ち消されずに残る光があるので焦点に光を集めることができます。例えば、3倍にするならば、上に書いた式は
$$\sqrt{{r_o}^2+f^2}-\sqrt{{r_i}^2+f^2}=\frac{3 \lambda}{2}$$
 
となります。この時、中心円の半径は
$$r_1 \cong \sqrt{3 \lambda f}$$
となり、n番目の円の半径(\(r_n\))は,
$$r_n \cong \sqrt{3n \lambda f}$$
と表すことができます。ここで、
$$\tilde{f} \equiv 3f$$
とおけば、この式は
$$r_n \cong \sqrt{n \lambda \tilde{f}}$$
と書くことができます。これは、主焦点の焦点距離が \(\tilde{f} \equiv 3f\) であるようなゾーンプレートのパターンを表しています。したがって、主焦点の焦点距離(\(\tilde{f}\))の1/3の所(\(f\))には、隣り合う透明ゾーンを通り抜けて3波長分だけずれているような光が収束していることになります。これが、3次の副焦点のできる理由です。同様にして、奇数次の副焦点が現れることがわかります。

収束する光量

実際に使われるゾーンプレートについて主焦点と副焦点に集まる光の量の割合を式で表す事はできませんが、ゾーンの数Nが無限大の極限でこの比率がどのようになるかはフーリエ展開を使って計算することができます。ゾーンプレートの開口部に入射する光の量を1とした時に各焦点に集まる光の量がわかります。まず、容易にわかる事は、ゾーンプレートの透明部分と不透明部分の面積が同じですから、入射した光の1/2は開口部の中の不透明ゾーンのところで反射または吸収されてしまいます。計算結果を示すと、残りの半分の光は、
$$I_0=\frac{1}{4},I_{\pm1}=\frac{1}{\pi^2},I_{\pm3}=\frac{1}{{3\pi}^2},…I_{\pm(2N+1)}=\frac{1}{((2N+1)\pi)^2},…$$
のような割合で各焦点に集まることがわかります。ここで、\(I_0\) は透過した直進光の割合です。これからわかるように、焦点に集まる光の量は焦点の次数が高まると急激に減っていきます。例えば、\(I_3\) には \(I_1\) の1/9しか光が集まりません。それ以外の副焦点も1/251/49、…というように急激に減少していきます。したがって、次数の高い副焦点はほとんど使い物にならないように思われます。しかし、3次の副焦点(\(f_3\) は使えるかもしれません。もし、この副焦点が使い物になるならば、この副焦点を使う利点は、(焦点距離が3倍になるようなゾーンプレートを使う訳ですから)最小ゾーン幅を同じにしたままゾーン数を3倍にすることができます。これは、フィルムに撮影してゾーンプレートを作る場合には利点になりそうです。そこで、問題になるのは背景光の問題です。収束する光の量が少ないところに強い背景光があるとコントラストが弱い写真となってしまい役に立ちません。本文の副焦点のところで示した図を見る限り背景光は少ないですが、これは少し不思議な気がします。焦点に収束しない光はどこに行ってしまうのでしょう?そこで、光軸から離れた位置での光の強さを計算してみました。下に示す図1,図2のグラフはその結果を図示したものです。
 
 
図1 ゾーンプレートに平行光線が入射した時の焦点面での光の分布
 焦点距離100 mm、ゾーン数5、のゾーンプレートによる焦点面嬢の光の分布を表します。緑線は主焦点(\(f\)),赤線は副焦点(\(f/3\))面嬢での分布で、副焦点面では中心の像の分解能は高まりますが広い範囲に光量のピークがあるので実質上の分解能は大きく下がります。
図2 ゾーンプレートに平行光線が入射した時の焦点面での光の分布
焦点距離100 mm、ゾーン数15、緑線は主焦点(\(f\)),赤線は副焦点(\(f/3\))。
 
上の図は、いずれも、焦点距離100 mmのゾーンプレートに平行光線を入射した時に主焦点(実線)及び \(f_3=100/3 mm\) の副焦点(破線)での光の分布を示しています。図1はゾーン数5の場合で図2はゾーン数15の場合(本文と同じ)です。本文では、光軸のごく近くの分布だけだったので副焦点にできる像の分解能はとても良いように思われましたが、光軸から離れると(副焦点の場合)背景光が急激に増加して分解能が悪化する事が予想されます。また、ゾーン数5の場合には背景光が非常に大きくなってしまい写真撮影にはほとんど使えない事がわかります。このことを、もう少し分かりやすく説明する為に、ゾーンプレートに入射した光が光軸を含む2次元面内でどのような分布をしているのか、光軸に垂直な2次元の焦点面内で光がどのように分布しているかを下に示します。
 
 

図3 光軸(x=0)を含む面内における光の分布
 ゾーンプレートはこの図の下の方(z=0)にあって、左側の数値(z)はゾーンプレートからの距離を示します。横軸は光軸に垂直方向の位置を表しています。主焦点距離は100 mmで、左の図はゾーン数5、右の図はゾーン数15のゾーンプレートの場合を表します。いずれの図でも光軸上 z=100 mm、z=33 mm のところ(点線で示す)で光の強度が強くなっています。左図ではz=33.33 mm の副焦点面では光軸からはなれたところでも光が強くなっているので、写真に撮るとぼけてしまうことがわかります。

図4 焦点面での光の分布(焦点距離 100 mm、ゾーン数 5 の場合)
 左図は主焦点面(z= 100 mm)、右図は副焦点面(z=33.33 mm)における分布を表しています。

図5 焦点面での光の分布(焦点距離 100 mm、ゾーン数 15 の場合)
 左図は主焦点面(z= 100 mm)、右図は副焦点面(z=33.33 mm)における分布を表しています。

これらのグラフを見ると、ゾーンプレートの副焦点を使って写真を撮影するのはかなり難しそうです。 しかし、このグラフから、ゾーン数が大きければ副焦点が有用になる場合もありそうなので、3次の副焦点については、完全にあきらめるのは未だ早いような気もします。特に、焦点距離が長いゾーンプレートの場合はまだ希望が持てそうです。これは、本文で示したように、実際に写真を撮影した経験からも妥当なようです。なお、R.W. Woodの論文には、Sorét型ゾーンプレート(振幅型ゾーンプレート)では三つ以上の焦点は見つけられなかったが、位相反転型ゾーンプレート(位相型ゾーンプレートの一種)によって六つの焦点が容易に見つかったことが記されています。