スリット・ゾーンプレート

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1次元ゾーンプレートとスリット・ゾーンプレート

前のページでは、縦横の1次元ゾーンプレートを重ねることによって直交線形ゾーンプレートを構成して被写体像を作りましたが、実は、1次元ゾーンプレート1枚だけで2次元像を結像させること出来ます。まず、このことについてを考えてみましょう。1枚の1次元縦縞ゾーンプレート(図1)は水平方向に広がった光を収束させますが上下方向には変化を与えませんから、入射した平行光線は焦点面上で垂直な直線上に収束するだけで2次元的な像は作りません。

図1 1次元縦じまゾーンプレート

そこで、この縦縞ゾーンプレートに対して横縞ゾーンプレートを組み合わせると前ページで説明した直交線形ゾーンプレートができますが、横縞ゾーンプレートの代わりに水平方向スリット板を組み合わせる(図2左上)ことを考えます。このとき、スリットの幅は1次元ゾーンプレートの中心ゾーンの幅と同じにします。これは、2段階スリット板において垂直方向スリット板のかわりに1次元縦じまゾーンプレートを使うことと同じで、二つの板の間隔をゼロにすれば図2右に示すようなスリット状ゾーンプレートと同じになります。このようなプロセスで作ったスリット・ゾーンプレートは「ピンホールの写真研究室」で述べた2段階スリット板と、基本的に同じですから、スリット・ゾーンプレートによって、2次元的な被写体像を作り出すことが可能であることがわかります。

図2 水平スリットと1次元縦じまゾーンプレートからスリット・ゾーンプレートを作る

スリット・ゾーンプレートによる光の収束

他のゾーンプレートの場合と同様に、ゾーンプレートを通った光の分布について計算しました。計算したのは、焦点距離が 50 mm で、 ゾーン数が 9 相当のスリット・ゾーンプレートです。平行光線(無限遠にある点光源からの光)がゾーンプレートに垂直に入射した時の計算です。

光軸(横軸)に沿って光がどのように集まるかを計算したものが図3です。設計通り、z=50 mm の所が焦点になっていて光が集まっていることがわかります。光軸に垂直な焦点面上で点光源の像がどのように広がるかを計算したものが図4です。横軸の目盛でわかるように光軸から 0.1 mm までの範囲を図示してあります。また、スリット・ゾーンプレートは、水平方向(X方向、緑)と垂直方向(Y方向、赤)では分布が異なりますから、両方向について分布を計算して描いてあります。図5は、XY面内の光の強度分布です。Y方向は、ピンホール・カメラと同じスリットによる像なので、X方向と異なり入射光は収束していないので解像度の悪い像に成っています。このため、点光源の像は縦に長い楕円になって投影されます。

図3 平行光線がゾーンプレートに垂直入射したときの、光軸にそった光の強度分布
 使っている縦じまゾーンプレート(横方向1次元ゾーンプレート)の焦点距離が50 mmなので50 mmの位置にピークが来ています。

図4 平行光線がゾーンプレートに垂直入射したときの、焦点面上の光の強度分布
 水平方向分布を緑線で、垂直方向分布を赤線で表しています。水平方向分布は縦じまゾーンプレートによるもので、垂直方向分布は水平スリットによるものです。

図5 焦点面内における光強度の2次元分布
 無限遠にある点光源の像は焦点面内で垂直方向にぼけた縦長楕円形に成ります。

点光源の像は、水平方向と垂直方向が同じサイズになる(円形になる)のが望ましいですが、スリット・ゾーンプレートで撮影すると、スリットに垂直な方向に長く延びた楕円になります。この長さを短くするためにはスリット幅を小さくすれば良いように思われますが、これは正しくありません。スリット幅は1次元ゾーンプレートの中心ゾーンの幅に合わせてありますが、この幅は今考えている像距離(この場合、ゾーンプレートの焦点距離)において像が最もシャープになる(点光源の像が最も小さくなる)大きさであるからです。このため、スリット幅を小さくしても、図5の縦方向の長さは、意図とは逆に、長くなります。これは、ピンホール・カメラのピンホールの直径に最適な大きさがある理由と同じです。これを確認するために、図4のスリット・ゾーンプレートにおいてスリットの幅だけを半分にした場合の分布図を図6に示します。

図6 スリット幅の最適解
 最適なスリット幅を持つスリット・ゾーンプレート(図4:f=50, N=29, スリット幅=ゾーンプレートの中心ゾーンの幅=0.33 mm)の大きさを半分(0.155 mm)にしたときの焦点面上の光の強度分布。緑と青は水平方向分布で赤とマジェンタは垂直方向分布。また、緑と赤は図4と同じスリット・ゾーンプレートによる分布で、青とマジェンタはスリット幅を半分にしたスリット・ゾーンプレートによる分布を表します。スリット幅を半分にすると垂直方向の広がりが2倍程度に増加することがわかります(分解能が悪くなる)。

このようにして作られたスリット・ゾーンプレートを用いて撮影した例を図7、図8に示します。いずれも、焦点距離画50 mmでゾーン数が29です。比較のために、左側にスリット・ゾーンプレートによる写真、右側に同じ焦点距離、同じゾーン数のフレネル・ゾーンプレートによる写真を載せてあります。スリット・ゾーンプレートには方向性があるので被写界の幾何学的形状の違いによって写り方が大幅に変わるように思われます。

図7 案山子祭りの出品作品
 左は、焦点距離50 mm, ゾーン数29のスリット・ゾーンプレートによって撮影、右は焦点距離50 mm, ゾーン数29のフレネル・ゾーンプレートによって撮影。

図8 エキセニア
 左は、焦点距離50 mm, ゾーン数29のスリット・ゾーンプレートによって撮影、右は焦点距離50 mm, ゾーン数29のフレネル・ゾーンプレートによって撮影。