撮影と画像処理_2:ソフトでシャープな写真

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ここまでの話から、ゾーンプレート写真はピンホール写真の一般化と考えることができるかもしれません。ゾーンプレート写真は光の回折現象を積極的に使っているのに対してピンホール写真では回折現象の事をほとんど考える必要がありません。ピンホールの直径が小さすぎると回折現象で像がボケるので、むしろ、回折現象をさける事を考える必要があります。実際、ピンホール写真でシャープな写真を撮ろうと思ったら、ゾーンプレートと同様、回折現象について考える必要があります。このため、ピンホールの最適直径を決める際には、まず、像面の位置を決めて、その像距離において回折現象によって広がった点光源の像の直径が最小になるように決めるわけです。解像力が最も大きくなるようにピンホール直径を最適化すると、その直径はゾーン数である正のゾーンプレートの直径と一致します。したがって、直径を最適化したピンホールはゾーンプレートの特別な場合(N=1のゾーンプレート)であると考えることが出来ます。

ところで、回折現象を積極的に利用した結果、ゾーン数がよりも大きなゾーンプレートの写真はピンホール写真にはなかったいくつかの特徴を持っています。それは、「解像力とコントラスト」,「ハローの存在」あるいは「色収差」と言う形で現れてきますので、ここでは、これらの課題について簡単に記してさらに詳しい説明の導入部とします。

ゾーンプレート写真の解像力とコントラスト

ゾーンプレート写真撮影の経験のある人に「ゾーンプレート写真の特徴は何ですか」と聞くと、多くの場合、ピンホール写真よりもさらにソフトな写真が撮れることですという答えが返ってきます。一方、科学技術分野での応用を考える時のゾーンプレート写真の特徴としては、もちろん、入射光量が多くてピンホール写真よりも明るい写真が撮れるということが大切ですが、分解能が高くてピンホール写真よりもシャープな写真が撮れることも重要です。でも、この二つの答えは矛盾しているような感じがします。しかし、これらは矛盾してはいないのです。簡単に説明すると次のようになります。

ゾーンプレート写真が、「とてもソフトに見える」ことの理由は、(1)背景光、(2)色収差の二つであると考えられます。ここでは、これらについて簡単に説明しようと思います。詳しい説明は、撮影と画像処理_3および撮影と画像処理_7に記すとともに、やや専門的な説明は、それぞれ、注釈_5注釈_6にまとめてあります。ゾーンプレートはピンホールと違って焦点距離がきちんと決まっていますから、長焦点や大ゾーン数のゾーンプレートを使った場合にはピントが外れてぼけた写真が撮れることがありますが、これは色収差の問題と深く関係しており支配的波長に合った距離合わせを正しく行えばある程度避けることができます。

背景光

ゾーンプレートに垂直に入射した光の行方を考えます。中心の光軸にそって進む光はそのまま焦点(主焦点)に達しますが、中心を外れたゾーンに入射した光の一部は回折効果で焦点に向かい、一方、大部分は真っすぐ進んで無限の遠方に向かいます。また、主焦点とは違う方向に向かって第2、第3の焦点(副焦点)に集まります。レンズの場合と異なり、フレネル・ゾーンプレートには主焦点以外に沢山の副焦点があることが特徴です。ここでは、これについてここではこれ以上述べませんが、注釈_7にやや詳しい説明があります。何れにせよ、主焦点に集まる光の量は全体の約1/10に過ぎません。この光以外が背景光で写真のコントラストを低下させる原因になっています。注意しなければいけないのは、シャープなゾーンプレート像を作るのは位相がそろっていてお互い干渉できる光(コヒーレント光;coherent light)であることです。

同一点光源からの光は、通常、コヒーレントですが、ある程度時間(コヒーレント時間)が経過すると位相関係が変化するので同じ光点からの光でも通ってきた経路が違うとコヒーレントでなくなり、焦点に集まるコヒーレント光の割合もさらに少なくなります。このような事は、レンズやピンホールでは考える必要はなくてゾーンプレート特有の現象です。

色収差

可視光線撮影用のゾーンプレートは、特に他の目的がない場合は、可視光線波長領域の中央に当たる波長 \(\lambda=\lambda_0=550nm\) に合わせて設計します。また、ゾーンプレートの焦点距離\(f\)と波長\(\lambda\) の間には、\(f\lambda = const=f_0\lambda_0\) という関係があります。したがって、波長\(\lambda_0\)に対して焦点距離が\(f_0\)になるように作ったゾーンプレートを波長\(\lambda\)で使うと焦点距離は次のようになります。
$$f=\frac{f_0 \lambda_0}{\lambda}$$
これは、通常のレンズの色収差と比べると、極端に大きな色収差であると言えます。「ゾーンプレートの原理」のところで述べたように、波長によっては収束しない光が大量にあります。ファインダーを通してピント合わせを行う時に、撮影者は必ずしも波長\(\lambda\)の光を意識して撮像面の位置を調整しているわけではありません。むしろ、被写体からの最も強い光に注目してピント合わせを行っていると考えられます。このため、もしある一定の波長の光だけ対象にしているならばパンフォーカスであっても、対象とする光の波長がわからない時には撮像面の位置を調整してピント合わせを行う必要が生じます。これが、パンフォーカスのゾーンプレートでありながらピント合わせが必要な理由です。